東京高等裁判所 昭和51年(ネ)667号 判決 1976年11月25日
控訴人
岡崎清一
右訴訟代理人
露木章也
被控訴人
鈴木五郎
右訴訟代理人
内藤貞夫
外一名
主文
原判決中主文第三項を取り消す。
右取消しにかかる被控訴人の請求を棄却する。
控訴人のその余の控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審ともこれを四分しその一を被控訴人の負担としその余を控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一本件(一)の土地の売買契約及び同土地の収益金の支払に関する当裁判所の判断は、原判決書六枚目裏末行中「原被告」の下に「及び当審における控訴人」を、同八枚目裏一行目中「尋問の結果」の下に「(原審及び当審)」とを加えるほか、原判決と同じ理由で、被控訴人の本訴請求を原判決認容の限度で理由がありこれを正当として認容すべきも、その余は失当として棄却すべきものと判断するので、原判決の理由(原判決書六枚目裏六行目から同九枚目表六行目まで。)をここに引用する。
二本件(二)の土地に対する地役権の取得について
被控訴人は、控訴人は昭和四〇年一二月一五日被控訴人に対し東京都江戸川区小松川三丁目八九番五宅地124.26平方メートル(以下「八九番五の土地」という。)を売り渡した際に、被控訴人に対し右土地の便益に供するため本件(二)の土地を通行し又は駐車のために使用する目的で同土地に地役権を設定することを約した、と主張するところ控訴人が昭和四〇年一二月一五日被控訴人に対し八九番五の土地を売り渡した事実は当事者間に争いがないけれども、右売買契約に際し、被控訴人と控訴人との間において被控訴人が右のように買い受けて所有する八九番五の土地を要役地とし控訴人所有の本件(二)の土地を承役地として被控訴人主張の目的で地役権設定契約を締結した事実を認めるに足る直接の証拠はなく、<証拠>をあわせ考えると、次の事実が認められる。
(1) 八九番五の土地は、その東側において一部本件(二)の土地に接し、その南側において公道(京葉道路の歩道)に接していて、土地そのものは右のように公路に接しているので、他の土地を通行しないで直接公路に通行することができる関係にある。また、右売買契約当時、本件(二)の土地を含む東京都江戸川区小松川三丁目八九番の三宅地225.55平方メートルの土地(以下「八九番三の土地」という。)上には、本件(二)の土地を除く部分に控訴人所有の二階建の建物が存し、同建物の西側には同建物を本件(二)の土地上に増築できるように同建物の一、二階の壁から増築用の鉄筋が本件(二)の土地の方向に露出していた。
(2) 被控訴人は、八九番五の土地を買い受けた後、同地上に建物を建築したが、同建物は本件(二)の土地との境界線に接近して建築され、出入口として正玄関は八九番五の土地の南側に公路に接し、内玄関は東側にその土台及びひさしが本件(二)の土地の西側の北部にはみ出されて建築された。控訴人は被控訴人の妻が控訴人の子であつた関係から、右建物の建築を手伝い、同内玄関の土台を作るにあたりこれが本件(二)の土地にはみ出しているのではないかと疑問を抱いたが、とくにこれに対し異議をさしはさまず、また右の内玄関を利用して被控訴人方で本件(二)の土地を通行することとなること知つていたが、被控訴人とは右のように義理の親子関係にあることからこれを黙認することとし、建物完成後被控訴人から同人が歯科医師業を営んでいる関係上、同地上に自己又は外来患者の自動車を置かせて貰いたいとの申入れに対し一旦はこれを承諾し、被控訴人において同地上に敷石を敷きたいと申し出たので、控訴人は被控訴人が東京都交通局から払下げを受けて搬入した廃線都電の敷石を被控訴人に代つて敷きつめたが、その後自動車を置くことにより同土地の地下に埋設されている水道管が再三破損して漏水するので被控訴人に対し自動車を置かないように求めたところ被控訴人はこれを承諾して自動車を同地上に置かなくなつたが、前記内玄関を利用して同土地を通行している。
以上の事実が認められ、<る。>
右の事実によると、控訴人が被控訴人に対し本件(二)の土地を通行するために使用を承認していることが認められるけれども、これをもつて八九番五の土地を要役地とし本件(二)の土地を承役地として地役権設定契約を締結したものと認定ないしは推認するには十分でない。すなわち、地役権は原則として要役地全部の物質的利用のために承役地全部を物質的に利用する権利であつて、要役地の上に建物を建築し、その建物の構造上公路に接する出入口と公路に接しない出入口を作り、前者の出入りにつき地役権を設定する必要が全くなく、後者の出入りにつき他人の土地の通行を必要とする場合においてこの後者の便益のために地役権を設定するということは、土地の直接の便益のためでなく、土地上に建築した建物の用法にしたがつた利用権の設定の問題であつて、土地すなわち要役地の全部のために地役権を設定する必要のない利用権につき当事者間に明示の地役権設定契約が締結されていない以上、たやすくその存在を推認すべきではないからである。したがつて、被控訴人が本件(二)の土地を通行する権利は義理の親子関係に基づいて控訴人が八九番五の土地上に建築した建物の前記内玄関を出入口として利用し公路に達するために本件(二)の土地を通行のため使用することができる使用費借上の権利にすぎないものと認むべきである。また、本件(二)の土地を駐車のため使用する目的で地役権を設定したとの点についても、右に認定のように被控訴人は控訴人の申し入れによつて駐車しないことを承諾しているのみならず、自動車を土地の上に駐車させることを目的として地役権が設定されたとするためにはその要役地との関係につき特段の事情が認められない以上、単に自動車を本件(二)の土地上に置くことを控訴人において承諾したもので使用貸借上の権利が設定されるにすぎないものというべきであるから、当事者間に地役権設定契約を締結したものと推認することはできない。
右によると、被控訴人は本件(二)の土地につきその主張の地役権を有するものでないから、これが地役権を有することの確認を求める被控訴人の請求は理由がない。
三したがつて、原判決のうち、本件(一)の土地の売買契約及び同土地の収益金の支払に関する被控訴人の請求を認容した部分は相当であつてこの点に関する控訴は理由がなく、本件(二)の土地につき被控訴人が地役権を有することを確認した部分は不当として取消しを免がれずこの点に関する控訴は理由がある。
よつて、原判決中主文第三項を取り消し、右取消しにかかる被控訴人の請求及び控訴人のその余の控訴を棄却し、訴訟費用は第一、二審とも当事者双方の勝敗の割合を勘案してその負担を定めることとして、主文のように判決する。
(菅野敬蔵 舘忠彦 安井章)